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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(行ツ)85号 判決

札幌市北七条西一丁目一番地

上告人

日詰配管工業株式会社

右代表代表取締役

日詰豊作

右訴訟代理人弁護士

斎藤忠雄

佐藤竹三郎

西村洋

札幌市宮ケ丘四七四番地

被上告人

札幌国税局長

塚本石五郎

右当事間の札幌高等裁判所昭和三八年(ネ)第一一〇号審査決定取消請求事件について、同裁判所が昭和四〇年六月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人斎藤忠雄、同佐藤竹三郎、同西村洋の上告理由について。

所論の市条例は、市内中小企業者に機械等を設置保有させて企業設備の近代化、合理化を企図するものであること、それは、機械等の使用許可を受けた者の納付すべき使用料を普通使用料、特別使用料の二種に分けて定めるが、前者は、当初納付金とともに市が使用者のために購入した機械等の買入代金としての支出額の分割弁済を意味し、後者は、右支出額の未回収部分に対する利息と認められること、それら納付金の完済までその機械等の所有権を市に留保する定めは、もつぱら市の右支出金額の回収の確保のためと解しうること、もし右使用許可が機械等の貸付であるとすれば、右条例による使用期間が機械等の耐用年限に比し一般的に短く、しかも使用期間更新のみちもなく、かつ使用料が上述のような金額であることを理解しがたいことにかんがみれば、右条例による使用許可は、市と使用者との間に機械等につきいわゆる割賦払約款売買を成立させるものとする原判決引用の第一審判決の判断は、相当といわなければならない。

論旨は、右使用許可が取り消され機械等が市に返還されたときは、既納の使用料は明らかに使用料たる性質をもつことになるといい、また、使用者の使用期間中の機械等についての損害保険を付する義務、善管義務、その滅失、損傷、亡失等による損害賠償義務、その管理の状況、生産実績の報告義務等をあげて、使用許可の法律関係を使用料等の完納を停止条件とする所有権移転契約と機械等の賃貸借契約とが同時になされた混合契約のごとく主張する。しかし、それは、賃貸借のように機械等がやがて貸主に返還されることを本来予定しているものではなく、使用許可の取消の場合にも、使用期間内に生じた機械等の減価分を既納の当初納付額、普通使用料から補償させる建前の特別な清算方法をとつているのであり、その他所論の使用者の義務も、右使用許可の関係を所有権留保付割賦売買と解することを妨げるものではない。

してみると、叙上の見解に基づき、上告人の納付した普通使用料につき、これを機械の売買代金の一部を構成するものとして使用中の機械の係争事業年度における減価償却額の限度においてのみ損金計上を承認した本件更正処分は相当であり、これを支持した原判決に所論の違法は認められず、論旨は理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本正雄 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 飯村義美)

○昭和四〇年(行ツ)第八五号

上告人 日詰配管工業株式会社

被上告人 札幌国税局長

上告代理人斎藤忠雄、同佐藤竹三郎、同西村洋の上告理由

第一点 原審判決には判決に影響を及ぼすこと明かなる法令の違背がある。

本件の唯一の争点は札幌市中小企業設備合理化促進条例(昭和三二年七月一日条例第二一号)第五条所定の「当初納付金」「普通使用料」で同第六条で規定する機械類の使用期間満了以前に支払はれたものは使用料であるか売買の割賦代金であるかにある。

第一審判決は「使用料という文言を用いてあつても其実的は割賦代金である」として原告(控訴人、上告人)の請求を棄却したが原審は第一審判決の理由をそのまま引用して控訴人の控訴を棄却した。

しかしこれは右条例の解釈を誤りしかもそれが判決に影響を及ぼすものであることが明かである。

一、上告人の主張は原審判決が引用している第一審判決の原告の請求原因三として詳細に摘示してある通りである。

当初納付金及普通使用料は使用期間満了し特別使用を加へすべてを完納して機械類の所有権が使用者に帰属する点は使用料であつて割賦払の代金ではない、従つて法人税法上は各年度の費用として計上さるべきものである。

二、上告人が右条例により札幌市より貸与を受けた機械は昭和三三年度旋盤二台、同三四年度折曲機一台であつて上告人が右各年度に札幌市に支払つた当初納付金、普通使用料を工場費用として損金に計上して法人税の確定申告をしたところ札幌税務署長は右は損金に当らないとしてそれぞれ所得金額の更正決定をした、これに対する再調査請求及札幌国税局長に対する審査請求をした経緯は第一審判決に摘示された原告の請求原因一、二の通りであり札幌国税局長は前示当初納付金及普通使用料は各機械の割賦による代金であり使用料ではないとして上告人の審査請求はいずれも棄却する旨の決定した。

三、併しながら本件は五年の使用期間中のうち昭和三三年の旋盤二台分は同年と同三四年の二年、昭和三四年度の折曲機一台の分は同年度一年分のものに過ぎない、前者についてはあと三年、後者についてはなお四年の使用期間があるのであつて此残余期間中上告人が使用料を滞納したり使用機械の管理が悪かつたりすれば同条例第一二条により市長が使用許可を取消し機械の返還を命ずることになるのである、かかる事例があつたことは第一審証人荒川毅原審証人永井忠の証言により明かである。

上告人が使用期間満了前に右の取消を受け使用機械を札幌市に返還した場合既に支払つた当初納付金及び普通使用料は文字通り使用料として終るのである。然るに原審判決の認定ではそれも割賦代金の支払であるということになり明かに事実に反する。

上告人が使用年度毎に前示各支払金を完了して使用年度を経過すればここに当初納付金と普通使用料の合計が機械の代金に転化して機械は上告人の所有に帰属するのである、此法律関係は使用料等の完納を停止条件とする所有権移転契約でありこれが機械の賃貸借契約と同時になされた一の有償無名の混合契約である。

然も此契約は一般の商取引に於ける割賦払と異り不対等的性格を帯び上告人は機械の使用期間中右条例第八条(保険義務)第九条(善管義務)第一一条(損害賠償義務)同規則第一八条(報告義務)の規定に服する義務を負うという特殊の法律関係にあり斯る法律関係によつて生じた本件契約は右の如く上告人主張の如き特殊の性格を有するものとなつたのである。

されば前示条例はこの点を明かにするために当初納付金、普通及び特別使用料という文字を用い割賦代金なる文字を使用しなかつたものである。

然るに原審判決は本件契約の特殊性を看過し本件契約を普通の商取引に於ける割賦売買と認定したのは前記条例の解釈を誤りそれが判決に影響を及ぼすこと明かであつて到底破棄を免れないものである。

以上

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